デレク・ベイリーは本当に驚かされた音楽アーティストです

ことばそのものの意味で、インディーズと呼ぶに足る音楽アーティストは、ギター奏者のデレク・ベイリー(1930〜2005年)だと思います。初めて聴いたのは、マイルス・デイヴィスらとも共演歴のあるベース奏者のデイヴ・ホランドがチェロを弾いて共演している『Improvisations For Cello and Guitar』というデュオ・アルバムでした。

音楽は、メロディー・ハーモニー・リズムという三大要素から成り立っているのが常と言われていますが、この作品ではそんな前提を最初から信じておらず、二人してひたすらノイズを延々と、LPレコードの両面に渡って発しているだけです。片方が発した音をきっかけに、それに反応して音を出しています。その音楽の印象は、高解像度の顕微鏡で細胞分裂を観察しているかのようなものでした。果たしてこれが音楽なのか、という疑問がわくのと同時に、彼ら二人は楽器が弾ける人達なのだろうか、という疑問すら持つ音楽でした。楽器を持たされたものの、どうやって弾くのか分からない、という演奏者が気ままに音を出しているだけという演奏に聴こえます。

私は音楽アーティストという言葉は積極的に使わない方だと思いますが、デレク・ベイリーの音楽は本物のアートだと思います。音楽のフォームやテクニックというものは本来、自分が作り出したい音楽を忠実に演奏するためのものです。したがって教えてもらったり学んだりするような性質のものではありません。その意味で、デレク・ベイリーはフォームもテクニックも彼にしかできないもので、聴いていてもはや唖然とするしかない領域の音楽です。

そのような特殊な音楽であるにも関わらず、繰り返し聴いているうちに夢中になってしまいました。そして彼の録音を手当たり次第購入してどっぷりと聴き込みました。そうして分かるのは、彼の音楽は非常に雄弁で、技術もしっかりしているということでした。嘘だと思う人がいたら、コピーして弾いてみると良いのです。まさにワン&オンリーの音楽アーティストです。